今回はNew Yorkから少しはなれて、私が留学するきっかけになった音楽祭のお話です。

 毎年6月半ばから8月の終わりまで米国コロラド州のアスペン(Aspen)で約9週間にもわたる音楽祭が行われています。1949年に始まったこの音楽祭は150以上ものコンサートやイベントがあり、のべ100000人が訪れます。同時に開催されるスクールにはピアノ、ストリングス、ウインド、ブラス、パーカッション、ヴォイスの他、ギター、ハープ、作曲、指揮、オーディオ・レコーディングの各科があり、学生数は約1000人に及びます。


Aspen OnLineのページ


 アスペンはデンバー(Denver)から飛行機で1時間、車で6、7時間の回りをぐるっと140 00フィート(約4300M)の山々に囲まれた標高7000フィート(約2100M)に位置する町です。冬はスキー客で賑い、そのシーズンは10月から5月、時には6月まで雪が残っていることもあります。富士山の6合目位にある町で、飛行機から降りた途端、高山病になった人もいるくらいです。町はロッジやホテルが中央のモールを囲むように建ち並び、さらにその周りに大小の別荘があり、全体の雰囲気は少しヨーロッパ調かな。


Aspen Music Festival & Schoolのページ
シーズンプロ他詳細な情報があります


 Aspen Music Festival & Schoolの会場は、町の教会とオペラ・ハウス、町からバスで5分くらい離れたミュージック・テントとハリス・コンサート・ホール、その隣に位置する映画館、さらにそこからバスで5分くらい離れたミュージック・スクールの建物です。

 レッスンは各先生のお宅であることが多く、リハーサルはスクール、コンサートはテントかホール、あるいは町ってな具合です。だから、移動をバスですることが多いのですが、朝は5時から夜は2時まで無料で走っているのであまり問題はありません。ただ、このバスは降車を示すためのボタンなどが無いので、降りたい場所が近づいてきたと思ったら『◯◯、プリーズ』と大声で伝えねばならず、小心者の私はドキドキしちゃって、いつも本当に降りたい場所の1つ手前で降ろされてしまうのでした。
バスの話が出たところで、降車の話をもう1つ。町の中に『シティ・マーケット』があり、お菓子や果物を帰りによって買おうと思うのですが、どんなに大きな声で『シティ・マーケット、プリーズ』と言ってもいつも止まってくれません。ある時、耳を澄まして聞いてみると『シリマーケッ』と聞こえるのです。最初は笑っていたのですが、ものは試しだっと言ってみました。『尻(?)マーケッ』カッコつけずに『尻』です。結果は御察しのように私もようやくお買い物をして帰れるようになりました。

 全学生は個人レッスンを9回、最初に申し込んだ先生によって与えられます。室内楽は希望者のみで、これも週1回のレッスンがあり、気の合った室内楽が出来上がれば、町の教会やコンサートホールで演奏会をしたり、ホテルや町角でアルバイトしたりできます。
私の夫はバスーン吹きで、私はチェロ弾き。パッとしないけれど2人で町角でやってみましたストリート・パフォーマンス! 雨上がりの日曜の夕方で少し人もまばらだったのですが、始めて10分もしないうちに人・ヒト・ひとで、1時間で58ドル。ビギナーズ・ラックだったのかもしれませんが、とにかく観客の反応を直接に感じることができ、よい経験をしました。

 また、このマンモス音楽祭は管弦打の学生と教授陣によって構成される2つの室内オーケストラと3つの大オーケストラをもち、声楽科の学生とゲスト歌手は9週間で2回の本格的オペラと1回の(子供向けで無料の)チルドレン・オペラを公演します。さらに全ての管弦打、声楽、ピアノの学生にはコンチェルト・コンペティションを受ける資格が与えられ、最優秀の者(それぞれの科毎に)は音楽祭中にオーケストラと演奏する機会を与えられます。作曲科の学生に対しては、自分の作曲した作品を大オーケストラで試演する機会を2回与えられ、優秀と認められた場合、公のコンサートで演奏されます。このような機会も9週間、1000人以上の参加する音楽祭であるからできることなのです。

 この他にもアレキサンダー・テクニークという姿勢を勉強するクラスや大学入試(子供も多いので)用にソルフェージュのクラスもあります。各先生のマスタークラスは全部合わせたなら50回を超えるのではないでしょうか。多くの学生はリサイタルをしたり、数人でソロのコンサートをしたり、自分でオーケストラを集めてコンチェルトを弾いたり、機会は常に門を広く開けているのです。

さて、さて、さて、音楽祭の楽しみはいかに多くの音楽に触れることができるか!にあると思うのですが、次にアスペンの1週間分のコンサート・スケジュールをあげておきます。

Time

Schedule

Fee

Monday, July 28

6:00 pm
7:00 pm

教授陣による室内楽
オペラ『Powder Her Face』

$26
$17

Tuesday, July 29

12:00 pm
1:00 pm
4:00 pm

8:00 pm

ヤング・アーティスト・コンサート
アメリカン弦楽四重奏のメンバーによるマスタークラス
ヤング・アーティスト・オーケストラ
---協奏曲はブラス・コンペティションの優勝者
教授陣(David FinckelとWu Han)によるコンサート

Free
$14
Free

$32

Wednesday, July 30

4:00 pm
8:00 pm

ヤング・アーティスト・コンサート
Aspen Concert Orchestra
---協奏曲はヴァイオリン・コンペティションの優勝者

Free
$20

Thursday, July 31

10:00 am
10:30 am
4:30 am
8:00 pm

教授John Perryのピアノ・マスター・クラス
音とお話
プライベート・ハウスでのコンサート
竹沢恭子の夕べ

$14
Free

$32

Friday, August 1

9:30 am
12:00 pm
6:00 pm
8:30 pm

Aspen Chamber Symphony のドレス・リハーサル
ヤング・アーティスト・コンサート
Aspen Chamber Symphony
映画

$8
Free
$32
$7

Saturday, August 2

10:00 am
1:00 pm
1:00 pm
4:00 pm
8:30 pm

オペラ・シーンのマスター・クラス
山の上でのコンサート
Aspen Festival Orchestra のドレス・レハーサル
教授陣による室内楽
映画

$17
Free
$12
$26
$7

Sunday, August 3

3:00 pm
4:00 pm
8:00 pm
8:30 pm

レクチャー(4時からのオーケストラの曲目について)
Aspen Festival Orchestra
教授陣(Peter Frankl, Piano他)によるリサイタル
映画


$38
$26
$7


 この他にスクールであるマスタークラス、学生のリサイタル(ピアノが多いかな)、指揮科の学生が友達を集めて開くオーケストラのコンサートもあり、運悪く自分のリハーサルと重なったり、マスタークラスと重なった場合は泣く泣く諦めるのであります。全てのコンサートは学生は無料。室内楽用のホールで行われる人気のコンサートは学生用にステージの上に座席が設けられ、私も96年に行った内田光子さんのリサイタルは超満員でステージ席になってしまいました。至近距離で迫力のある演奏を聞き感動した上、そんな中でも集中できる一流の力をみて、さらに感動を深めました。テントである日曜のオーケストラのコンサートは1番人気で、大人も子供も外の芝生の上にまで溢れ出して、音楽を楽しみます。時には立派な角を持った鹿がテントの近くに現われて、聴衆をびっくりさせることもあり、鹿もいい音楽の誘惑には勝てないようです。

 夏のアスペンの楽しみ方は音楽だけではありません。音楽を勉強する上で大切なもの、それはテクニークだけではありません。最も大切のもの『心』を磨くための場もこのアスペンにはちゃんと用意されているのです。アスペンが富士山を超える山々に囲まれた町であることは前にも書きましたが、楽しみその2はズバリ『ハイキング』! 何だ、と思ったでしょう。しかし、絵葉書の中に入り込んでしまったような錯覚に陥ってしまうくらい、山々の自然の姿は本当に素晴しい。
 ルビーパークと呼ばれるバス停で往復$5を払って、ゆっくりバスにゆられて約30分。運転手のガイド付で向かうは『マルーン・ベルズ』(Maroon Bells)。途中、横手に馬牧場やラマ牧場を見て、ジャック・ニコルソンの別荘の脇を通りすぎ、運がいいと(?!)熊も見れる。時には森の中での結婚式も見れたりする素晴しい30分です。元気のある人はこのコースを自転車で、またはローラーブレードで行ってもよいでしょう。本当にそういうタフな人がいるんですよ。
到着してバスを降りたら別世界。そびえたつ山の麓に広がるマルーン・レイク(Maro onLake)にはビーバーの巣が。ここでゆっくりしても十分満足できますが、湖の周りを歩いて橋を渡り、ゴウ音を聞きながら雪解け水の流れ来る方へ向かって約1時間ハイキングをして下さい。小さな滝や、ゴツゴツした岩の道や、急激な坂を超えて、リスがキーキー鳴いて歓迎してくれる辺りまで来たらもう一息です。森が一層深くなり、それがパッと晴れたと思えば、目前に迫るクレーター・レイク(Crater Lake)が。山はさらに間近に迫って、壮観です。小鳥やリスがすぐ近くまで、少しも人間を恐れる風もなく寄ってきます。湖の水はたった30秒もその中に手を入れることを許さないほど冷たく、心地よい風がその上を優しく撫でています。さらに奥へ行くことも可能ですが、私が行ったのはここまで。帰りのバスは5時なので、4時にはこの湖を出発せねばなりません。
残念ながら、夜はバスが運行していないのですが、レンタカーを利用できたなら、ぜひ夜のマルーン・ベルズを見て欲しいです。湖に写る月や星、暗闇に浮かび上がる山頂に雪の残る山々、本当に素晴しいです。

 さて、気になる参加方法は? まず音楽祭のカタログを取り寄せること。その中に教授陣のリストがあるので、経歴や日本の先生の意見を参考に、第3希望位まで決めます。もし、アメリカ留学を考えるのなら、教授が教えている学校で選ぶのもいいでしょう。沢山の教授がいらっしゃるので必ず気にいった素晴しい先生と出会えると思います。次にオーディション・テープですが、2、3のことなるスタイルの曲を15分位に入れます。ソナタとコンチェルトでもいいし、管楽器の学生はオーケストラ・スタディでもいいようです。このテープは1本は自分で持っておいたほうがいいです。後で『同じものを1つ送って欲しい』と連絡がくる事もあります。年齢制限は無いと思います。提出書類を全部まとめて送ったら後は待つのみ。テープを聞いた先生が興味を持ってくれたら、次の書類が届きます。その中に、先生の住所もあるので、出発前に手紙くらいは書いておくことをお勧めします。

8月末に『長野アスペン』http://www.NetLaputa.or.jp/~asao/aspen/ なる姉妹Fes tivalがあります。


元祖アスペンの教授によるスクールです。このFestival中にコンペティションがあり、優秀な学生数人に、アスペンの半期の受講料と往復航空券が贈られます。

少しでも多くの方がアスペンに興味をもって、アスペンの空気を肌で感じていただけたらと思います。きっと忘れられない愛すべき町の1つになるはずです。それでは、さようなら


著者 Katura