留学について 第1回

 
ドイツ語圏での留学についてのお問い合わせが多いので、私のわかる範囲で留学に関する事柄をお話ししてみようと思います。
 
 最近はちょっとしたきっかけがあれば誰でも留学できる時代になりました。ドイツの音楽大学にはたいていどこへ行っても日本人がいますし、少し前なら非常に勇気のいる旧東ドイツ、東ヨーロッパの国々にも多くの日本人が勉強しに行っているようです。ヨーロッパの音楽がすっかり日本に浸透しているとはいえ、やはり音楽を学ぶわれわれにとって、この地に実際に住み、自分が日本で勉強したものを新しい世界でさらに深めるというのは、とても魅力のあることでしょう。

 ずばり言って、はたして「留学はお金がかかる」ことでしょうか? 何を基準にそういうことを論じるかにもよりますが、私の考えでは、例えばある音楽学生が、親元を離れ東京や大坂など大都市にアパートを借りて住んで、私立大学に入り、学部を卒業し、その大学院へ進もうかどうか悩んでいるなら、やっぱり留学を勧めます。日本の住宅事情は言うに及ばず欧米とは比べものにならないレヴェルですし、また私立大学の入学金、授業料の高さは、そのことをドイツ人学生に話してもとても信じてもらえないほどの域に達しています。国立大学だって今ではとても学生のアルバイトで捻出できるような授業料ではありません。

 ただ、「それでは日本の高校を出たらすぐに渡欧してはどうか」という意見には賛成しかねます。日本の大学へ行って「日本語で」専門教育を受けるのは(今の日本の大学のシステムにいろいろ問題が多いとしても)けして無駄にはならないと思いますし、われわれ日本人の10代後半の精神年齢や自立度は、一般的にヨーロッパの基準からみると低く、かなりの精神的ストレスが心配されるからです。

 しかも、わたしは芸ごとには基本的には「競争原理と競争心」が必要だと思っているのですが、ドイツの各大学は、日本の有名音楽大学から意気込んで乗り込んできた学生から見たら、ちょっと拍子抜けするほど「のほほん」としているのと感じられるのではないか、と思います。もちろん、素晴らしく内容の充実した学部や、学科、教室はあります。でも、それはドイツの音楽大学が持つ整ったシステムから生まれるエネルギーではなく、教授個人の熱意、そしてその授業を受ける学生個人の向上心の強さに寄っているところが大きい気がします。まあ、この辺はたぶんに私の個人的意見が入っていますので、読んで首を傾げている方は「百聞は一見にしかず」ということばを思い出して下さい。

ただ、私は本当に日本の大学で、落ちついて勉強し、さらなる目標を持ったり、問題意識を持つのは重要なことだと思います。留学は早い程良いとは思いません。もちろん遅すぎるのも良くないと思いますが。


 それでは、ドイツの州立(日本でいうところの国立)音楽大学が「いくらかかるか」。これは、なんとほとんどの場合「ただ」です。(注1) 学生生活を支える組織(日本で言えば学生会)に払うものと、その州の中で有効な交通機関のフリーチケットをもらうために払う一部負担金以外には、入学金も、授業料もありません。これはわれわれ外国人にも当てはまります。その額は州ごとによって違いますが、一学期(半年)に約1〜2万円といった所です。これは中世から続くドイツの良い伝統で、大学に限らず、「学生割引」という概念は、劇場や美術館などの入場料金などにしっかり根付いており、まさに学生天国といえるでしょう。そういえば僕が通った東京の大学のそばにも、定食を学割で出してくれるところがあったなあ・・・。

 総合大学にはそのために、たくさんの幽霊学生がいるそうです。つまり籍だけ置いておいて、その学生の特典だけ享受しているのです。もっともそのおかげで、主婦や、子供がいる若い学生なども安心して大学で勉強が出来るのです。
 しかしその「学生天国」にも最近は各州の財政の苦しい台所事情から、ついに陰りが見え始めています。ベルリン自由大学(旧西ベルリン市の総合大学)では大学の有料化に対して学生たちの激しい抗議運動が繰り広げられました。いったい市はどんなにひどい決定を行ったのかと思って憤慨しつつその記事を読んだら、なんと一学期につき「100マルク」だけ取るんですって! みなさん、100マルクっていったら約7500円ですよ! 7万円の間違いじゃないですからね。取って下さい! 払いましょうそのくらい! そのかわりあなたたちの音楽を愛するわれわれ外国人をもっと受け入れてくれっ! と僕は言いたい。
 
 まだ音楽大学にはその有料化の波は押し寄せてはいないようですが、南ドイツの学校では学籍の総数を減らす方針が次々に出ているようです。入学試験が行われないところもあります。自分の入る大学からは出来るだけたくさんの情報をもらうように心がけて下さい。

 もう少し経済的なことについて話します。日本にはなんだかんだいっても、いろいろな奨学金があります。外国政府のものあれば、日本の公的なもの、自治体のもの、企業のもの、各都道府県にあるロータリークラブの各種奨学生プログラムもあります。ぜひインターネットをフルに活用して調べ、挑戦して下さい。もうここから留学に必要な「だめもと」の精神は必要です。日本とは違って、ドイツでは本当にきわめて少数の優秀な学生にしか奨学金は与えられません。大学がただですので当たり前ですが、まさに「研究費、奨励費」として与えられるのです。ですから日本からなにがしの「奨学生」として来た、とドイツ人にいうと、彼らはわれわれを尊敬の眼差しで見ます。また、なんらかの奨学金をもってドイツの音楽大学を受験すると、ほんの少し試験官に目をかけてくれるという話しをあるドイツ人の教授に聞きました。

 次回は、実際に渡独するまでの流れをお話ししてみる予定です。さらに、ドイツでの勉強そのものについて、どのような資格が取れるか、言葉はどのように準備したらよいか、などを述べていきたいと思います。また、私は古楽というやや特殊な学部にいるのでその方面のご案内も行います。

 個人的なご質問がありましたら、紙面の内容に則す範囲でできるだけお応えしていきますので、メールをお送り下さい。

Cantano