留学について 第2回


 前回は留学にかかるお金の話しをしましたが、たくましい人たちはこちらへ飛び込んできて、アルバイトをしつつ勉強しています。慣れない土地での勉強はお金もかかり大変ですが、やっぱり最終的には自分の気の持ち方ですね。
 
 さて、いざ渡独するとなるとどこから手を付けていいやらわからない方も多いと思います。たいていは自分が日本で師事していた先生の紹介をもらって、ドイツの教授と連絡を取り、受け入れてもらえるかどうかテープなどを送ってコンタクトを取るのが今までの「普通」の留学形態でした。
 ところが今は、日本からの留学生はドイツ音楽界にとってはけして「お客さん」ではありません。勤勉で、よく訓練された技術を持つ学生として、日本人はもう、なかば尊敬され、そして恐れられる存在なのです。各州の音楽大学が抱える財政的問題も学籍の総数に影響を及ぼしかけています。Platz(各学部の募集人数)をめぐる話題は、私たち留学生の間でもっともよく登る話題です。日本からの紹介状があるからと行って、簡単に安心できない時代になっているのです。

 まず、何はともあれ教授とのコンタクトをしっかり取ること、これが後の苦労や、誤解を避けるうえで一番大切なことです。そのためにはもちろん語学力が重要なことは言うまでもありません。ドイツの音楽大学はふつう入学試験に簡単な面接があり、入学時には「語学力証明書」を出すように義務づけられているので、現地へ行ってからのんびりやろうなどど気楽に構えない方が賢明です。声楽科にとっては、このことが後の勉強に決定的な影響を与えると思って、十分に準備することをおすすめします。それは必ずすばらしい喜びになって返ってくるでしょう。語学力の目安はだいたいゲーテ・インスティトゥートのZDaFからMittelstufe氓ナす。少なくともZDaFは取得しておくことをおすすめします。

 教授に連絡を取るときは、次のことを明らかにして、準備事項を聞いておくと良いと思います。また自分の演奏テープを送って、率直な意見を聞くのもいい方法でしょう。理想的なのは、師事したい教授の前で演奏をし、聴いてもらうことです。このことはVorspielやVorsingenといいます。

☆正規の学生として受験するのか、1年間だけレッスンだけを受ける聴講生として受験するのか。
 1年と限った聴講生なら、きちんとした技量がある人ならまず入学の許可がおります。この場合はしかし、学生証が与えられないことが多いので、滞在許可証(ヴィザ)取得の際には少々面倒なことになります。

☆何を勉強したいのか。
 当たり前のことですが、日本でのように教授からいつも曲をもらうような受け身の姿勢は通用しません。目的意識をしっかり持って、あらかじめ自分の希望を述べておくべきです。

☆どのコースを受験したいのか。
 いわゆる「学部Grundstudium」「学部の途中からHauptstudium、hoehere Semester、Zusatsstudium」「大学院Aufbaustudium、Meisterklasse」などのコースがあります。ふつうは前者2つのコースに入ることになります。大学院に当たるところにいきなり入るということは難しいようです。その他にも、日本の「教育学部音楽科」にあたるDiplom Musiklehrer、教会音楽家のためのコース、などがあります。これらの呼称は、州によって、大学によって異なったり、概念が違ったりするので注意が必要です。願書を熟読して下さい。
 自分で留学先をアレンジする必要のある人は、「Musik Almanach」(ドイツ音楽情報のページを参照)やDAADドイツ学術交流会(東京事務所は港区赤坂7-5-56)でもらえるパンフレットで開かれている講座や、教授名を調べると良いでしょう。それから、留学するときは「州立」の音楽大学を受けることをおすすめします。ちいさなAkademieやKonservatoriumは、Hochschuleに入れないときの次の選択肢としたほうがいいです。このことはまたお話ししますが、ドイツでは州立の学校が一番「権威」もありレヴェルも高いのです。

 留学するということはそれだけでも価値のあることなのですが、やはり日本は「資格」と「書類」の社会。状況が許すならだれでも何か「修了証書」みたいなものを持って帰りたいでしょう。

「これで大丈夫ドイツと音楽」

特に音楽家のために書かれた留学ガイド。
内容は読みやすく、整理されていてとても役に立つ。
私も留学初年度は大いに利用した。願わくば改訂されていると良いのだが。


 上に挙げたDiplom Musiklehrerのコースでは、ドイツの学校で音楽の教員として働ける国家資格が取れます。このコースは、主専攻の楽器で入学試験に合格できないときに選択肢に入ってくると思いますが、語学力が要求されますし、日本の大学のように卒業時にほとんど自動的に教員免許状が付いてくるといった生やさしいものではありません。とても大変です。

 2番目のHauptstudiumはわれわれ日本人にとってもっともなじみの深いもので、日本の音楽大学を出ている人はたいていここに入ります。Grundstudiumの「中間試験Zwischenpruefung」に合格したドイツ人学生たちの所へいきなり入るわけです。日本では、大学の3年次に当たります。入学試験は、ふつうは実技、簡単な面接だけ。卒業試験は「芸術家資格Kuenstlerische Reifepruefung」などといわれるもので、日本の「学士」に当たります。この試験はふつう2年間(4ゼメスター)くらい勉強した後で受けられる場合が多いようです。卒業試験は普通、実技だけで、コロキウムと呼ばれるレパートリーの広さ、見識を示すことに重点を置いたもの(口頭諮問が伴うこともある)と、試験演奏会(公開)からなります。

 3番目のAufbaustudiumは、ドイツ音楽大学の最高学府で、Hauptstudiumで優秀な成績をおさめた学生だけがここに進むことが出来ます。ソリストとして演奏活動をしていく上での資質をさらに育てるのが目的で、修了試験はKonzertexamenとかSolistenpruefungと呼ばれ、大変尊敬に価する資格です。その修了試験コンサートは、例えばハンブルクでなら、学内ではなく、きちんとした音楽ホールで学校主催のコンサートとして有料で催され、ピアノ科ならオーケストラを付けてコンチェルトを弾きます。

 ただし、ここまで行くには長い時間がかかりますし、本当に優秀な学生はどんどん学外へ出てオーケストラやオペラ座と契約したりして、彼らの「実利主義」を貫きます。初めから絶対Konzertexamenを取るなどとあまり気負う必要はないと思います。

 次回もさらに「留学」に関する話しを続けます。質問はCantanoまで。